◆お客様情報
「初めて購入した累進メガネの左側方だけがとてもぼやける。右側方は
ぼやけを感じにくい。」
◆担当社員からの情報
・フィッティング、アイポイントをチェック→特に問題なし
・テスト枠で再確認するも視野が狭いためか原因究明できず
・レンズメーカーからは指定どおりに作製されているとの回答あり
◆前眼鏡
R)(0.7×S±0C-0.75D A90゜) BV(1.0p)
L)(0.8×S+0.25D C-1.00D A90゜)
OCD 66mm
◆完全補正値(遠見)
R)(?×S±0C-1.75D A85゜)
L)(?×S-0.50D C-0.50D A90゜)
◆作製眼鏡
R)(0.7×S±0C-0.75D A90゜ Add+2.00D)
BV(1.0p)
L)(0.7×S+0.25 C-1.00D A90°Add+2.00D)OCD66mm
○フレームとレンズ
・フレーム:マグナクリップ ナイロール
・レ ン ズ:ペンタックス外面累進(累進帯16mm)
<考えられる要因>
1.光学中心のずれ
→片眼PDの差を考慮せずメガネの光学中心を均等に配分して作製した場合に生じることがあります。右PDが狭く、左PDが広いときに左方視でのぼやけが生じます。
→フィッティングポイントの高さの左右差が問題になることもあります。
→フィッティングの不具合で左右の頂点間距離に差が生じます。右眼の頂点間距離が狭く、左眼が広くなると左方視でのぼやけが生じます。
2.乱視の未補正、残余乱視の発生:
→累進レンズの側方部には非点収差(乱視度数)があります。
乱視の未補正(過補正を含む)、乱視軸のずれのために生じる残余乱視があると、累進レンズの非点収差がたまたま残余乱視の補正効果となる方向は見やすいのですが、その逆方向はもっとぼやけを感じやすくなります。
3.両眼視(眼球運動)の問題:
→眼球運動障害(眼筋麻痺)があると麻痺眼筋の作用の方向で複視が発生し見づらくなります。
今回の症状は「ぼやけ」なので、眼筋麻痺の可能性は低いと思います。
4.眼球振盪症:
→眼球振盪症では揺れが治まり、見やすくなる方向(安静位)があり
ます。
<問題分析と問題解決に向けて必要なデータ>
1.片眼PD測定値
2.信頼のおける完全補正度数と補正視力
・完全補正度数と作製度数の整合性がないので不安が残ります。
・オートレフのデータもあれば参考になります。
3.利き目の測定
4.眼球運動障害と眼球振盪症がないことの確認
5.左方向のぼやけが気になるのは、
右眼のみで見たときか。
左眼のみで見たときか。
両眼で見たときか。
6.単焦点遠用度数ではどうか。
<現段階での推測と対応>
1.光学中心のずれ・・・この点については、おそらくチェック済みでしょう。
2.下記にて詳細を説明。
3.眼球運動・・・・・・・おそらく問題ないでしょう。
4.眼球振盪症・・・・・・おそらくないでしょう。
5.乱視の未補正、残余乱視の発生・・・最も考えられる要因です。
仮にこのお客様の利き目が右眼であった場合は、右眼は乱視を弱補正している上に、85゜の本来の軸方向を90゜に調整して作製しています。このときの右眼の残余乱視は、C-1.00DD A70゜くらいとなるでしょう。
このような残余乱視と累進レンズの非点収差の関係に注意することが
ポイントです。

図の点線で囲んだ部分に注目すると、乱視の軸方向がレンズの右側と左側で異なります。斜めの線はマイナス乱視の軸方向を示しますが、右方向では、「A70゜」方向となっていて、累進レンズの非点収差が残余乱視を丁度補正する効果となっています。
それに対して、左方向では「A120゜」方向となるため逆効果となり、ぼやけがより大きくなります。
このように累進レンズでは、乱視の補正精度が側方のぼやけに影響することに留意して、特に斜乱視の軸を安易に90゜あるいは180゜に調整することに配慮すべきです。特に乱視度が強度になるほど影響がでます。
対応は、まず左右眼ともに乱視度と乱視軸を正確に測定し、違和感の出ない範囲で乱視度、乱視軸を適正に合わせると解決するのではないでしょうか。
このお客様事例は、上記の乱視補正度数の調整によって解決しました。
コンテンツ提供:WOC